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2019年10月13日日曜日

Umeko Cup 2019に際して①~早川さんからの寄稿文~

みなさんこんにちは!広報担当の小林です。

本日は先日の梅子杯でAC陣を率いた早川さんからの寄稿文です!


第25回梅子杯でChief Adjudicatorを務めさせていただいたKDSの早川です。
LINEを確認してみたらCAのオファーをいただいたのが7/18だったので、足掛け3ヶ月弱の間準備をしていたことになります。
びっくり。

今年の梅子杯は、コンセプトや取り組みの具体的な話はさておき、自分が見た中で一番の梅子杯にしたいと意気込んでコミやACの皆さんと準備を進めてきました。
客観的に見ると「いつもの梅子杯とそんなに変わらなかった」かもしれませんが、梅子とは何か、今のディベート界で梅子が果たすべき役割は何か、について運営メンバーがかなり真剣に考えた大会であったことはこの場を借りて皆さんにお伝えしておきたいと思います。
それぞれ本業がある中で使える時間に限りはありましたが、手は抜かなかったつもりです。
運営が頑張ったからといって参加者の皆さんやディベート界にとって良い大会になるわけではありませんが、どこかしら、なにかしら特別な大会になっていたことを願ってやみません。

でまあ、それとは関係なく、CAの仕事は楽しかったです!
3ヶ月間結構大変でしたが、みんなで色々相談しながら大会というお祭りを作り上げていくのは他では中々味わえない経験です。
ACのオファーって中々いただけるものではないですし、正直もう自分には回ってこないんだろうなあ…と思っていた中でのお話だったので大変嬉しかったです。

さて、私がCA / TDアドレス・ブログ・SNS等いわゆる「公の場」でディベート界に向けて情報発信をさせていただくのは約10年ぶりとなります。
そもそもSNSが苦手、論争に巻き込まれるのも苦手、コミュニティー内での立場の弱さ的に発言しても恐らく流されそう、など個人的な事情で議論に加わってこなかったということもあるんですが、それに加えて卒業生が現役のすることにとやかく口出しするのは良くないことだと思いオフィシャルな場で声を上げないスタンスをとってきました。
ディベート界はあくまで現役生のもので、Alumniは居候させてもらっている立場でしかないからです。
批評家的に意見を言って何もしない / できない「言うだけ番長」は発信者自身が思っているほど建設的ではない、というような気が個人的にはしています。

今回は幸運にも現役の皆さんに混ぜていただく機会を得て、コミュニティーの一員としてそれなりに汗をかいたと思えたので、記事の執筆をお引き受けすることにしました。
今回は、梅子杯の運営をキッカケに改めて感じた「二つの格差」について私なりの考えを皆さんにシェアさせてください。
①大学間・経験者と未経験者間の格差について
②運営負担の格差について


①大学間・経験者と未経験者間の格差について
CAのオファーをいただいたとき、最初に考えはじめたのは以下の二つのことでした。
・ここのところ梅子杯イマイチ盛り上がってない気がするな…なんでだろう。そもそも、今の現役生に梅子杯ってどう思われているんだろう
・というか、それ以前にディベート界そのものが心なしか元気がない気がする

(ここまで書いてみて、「ワシの若い頃は…」みたいな言い方になっていて我ながら恐ろしい気持ちになったんですが、続けます)

恐らく事実として、ディベート界の人口は減っています。
正確な数字は把握していませんが、代表的な上級生大会の一つである春Tの参加チーム数は数年前と比べて10~15チームほど少なくなっている印象です。
梅子については5年前の参加チーム数がちょうど50チームで、ここ2~3年は40台前半 (42~45チームくらい)です。
どういう見方をするかによってこれが何を意味するかには幅があると思いますが、
a) ディベートに取り組む大学が減っている (脱落していっている大学がいる)
b) いわゆる強豪校を含め、一大学あたりの部員数が減っている
c) ディベーターとしてアクティブな期間の平均が短くなっている (上級生になればなるほど人数が細りがちになる)
という三つの現象が複合的に起こっているのではないか、と私は考えています。

ディベート界そのものの活気がなくなっていたら、そりゃ梅子杯も盛り上がりませんよね。
もちろん、梅子杯の地位低下の背景には他にも色々な原因があるはずで、たとえば
・日本ディベート界が国際化 (Asian、BPスタイルに重きを置く)が進んだことによりNAスタイルの評価や重要度が低下した
・2009年にBinary Star Cupが、続く2010年に銀杏杯が登場したことで「1年生にとって唯一のブレイク大会 / 1年生最強決定戦」という梅子杯の特別感が薄れた
などもあるとは思います。
思いますが、なんかそれって本質からは少し遠いよなあ、というのが私の個人的な直感でした。
結局のところ、人数的・雰囲気的にディベート界の活気がなくなってきているのが直接間接に梅子杯の盛り上がりを削いでいる気がしてならないのです。

では、なにがディベート界の活力を削いできたのか。
それが格差なんだと思います。
結論自体はありきたりに聞こえるかもしれません。
みんな薄々気づいてる / 知ってることだし、実社会でも格差は社会問題として取り上げられています。
にもかかわらず、格差は拡大する一方だった。(と、私は感じています)
それは、課題意識が暗黙のものに留まっていた、そしてそれゆえにコミュニティーとしてこの問題に正面から向き合ってこなかった、対策をとってこなかったからかもしれません。

ディベートは「主に頭を使う」×「実社会で求められるスキルが直接的に競技者としての実力に反映"されやすい"」ことが他のゲームやスポーツと比べて非常にユニークな点の一つだと思います。
その結果として、「ディベートが強いこと」と「一般的な知性レベル」、ひいては「人としての価値」が同一視されやすい競技なのだと思います。
上記の正誤や是非について今回は脇に置いて事実だけに目を向けると、競技の結果が競技以外の日常生活を浸食しやすい。
端的に言うと逃げ場がなくなりやすい競技なんですね。
結果を出せる人・周囲に認めてもらえる人は日常の他の場面も含めて自己肯定感が上がりやすい、そうでない人は逆に自己肯定感が侵されやすい。
感情が両極端に振れがちで、心理的負担が重くなりがちな競技だと思います。
だからこそ結果が出せていない人に「結果が出るまで頑張れ」、「頑張れば結果が出る」と言うことは他の競技以上に酷なことであると私は思っています。
こういった競技としての心理的な特性に、大学間、そして経験者と未経験者間の格差が加わってコミュニティーメンバーが脱落しやすくなっているのではないでしょうか。

梅子杯の先行発表に書かせていただいたことを敢えて繰り返しますが、
・高校におけるパーラメンタリーディベートの普及に伴う1年生の平均レベルの上昇、BPやAsianフォーマットの大会増加による国際化の進展などの変化は、国際大会で活躍する日本人ディベーターを多数生んだ点で大変な意義があった

一方、
・AsianやBPフォーマットが主流になったことにより部員数が多く練習環境に恵まれている大学、多くのジャッジ提供が可能な大学への教育機会や大会出場機会の偏在が加速した
・大学1年生の春~夏の時点で経験者との大きな実力差を目の当たりにして気持ちが萎えてしまう未経験者が増えた

結果として、
・強豪大学に所属している経験者と、根性とセンスがあり運にも恵まれた一部の未経験者以外が排除されるディベート界になってしまっている

これが直視すべき現実ではないでしょうか。
梅子の先行告知では、「ディベートを楽しむ機会や、ディベートを通じて得られる教育機会にアクセスできない層をディベート界の中に作り、最終的にはコミュニティーから排除してきてしまったのではないか」と書きました。
語弊を恐れずに言えば、後ろ向きな・悲しい気持ちで去って行かざるをえない人が多いコミュニティーの雰囲気や将来は暗いものとならざるを得ません。
これは、強豪校の人たちにとっても無視できない問題だと私は思います。
活力のないコミュニティーで、内輪だけの大会で勝ち負けを競うことが本質的に楽しいことだとは思えないからです。
もっと踏み込んだ言い方をすると、KDSやUTDSにいるだけである程度マトモな教育が受けられて、ある程度真面目に努力さえしていれば学年大会のブレイクは確実に期待でき、恐らくブレイク後も1~2回は比較的簡単に勝ててしまうような格差のある競技に勝ち負けのカタルシスがそれほどあるとは思えない、ということです。
強豪校を含めディベーターの寿命が短くなっている (前述したc)の問題)原因の一つは、代わり映えしない大会結果と対戦相手、過剰な内輪感に「お腹いっぱい」な現役生が増えているからではないでしょうか。

だとすると、これは苦労している大学の方々をどう助けるかという上から目線での話ではなく、このコミュニティーに属するほとんどの人にとっての共通の問題であるはずです。

私は現役の頃、KDSやUT、ICUの上級生のみならず成蹊や青学の先輩 / OBOGの皆さんに大変お世話になりました。
遠方では北九州市立大学の先輩にとても懇意にしてくださる方がいらっしゃり、結婚式に呼んでいただくなどその後も親しくさせていただいています。
もちろん良い話ばかりではなく、お叱りを受けたり、大会でギラギラした敵愾心を向け合ったり、といったことも少なくありませんでした。
ただ、今よりも幅広い他大学の先輩が身近な存在で、コミュニティーとして地続きだったような印象があります。

結局「ワシの若い頃は…」みたいな話になってしまった感があって悲しいやら情けないやらですが、ディベートコミュニティーが限られた人たちの内輪になりつつあるとするならば、それは悲しいことであり、将来への不安を感じさせることです。

じゃあそうならないためにどうするの?という疑問があると思います。
正直に言うと私にも名案はありませんし、冒頭述べたように現役生に差し出がましいことを言うべきでないという気持ちもあります。
それを承知の上で幾つか思ったことを述べるとすると、以下のようになります。

まず前提として、この手の問題に立ち向かうにあたり精神論はまず間違いなく処方箋にはならないと思っています。
持続可能性がないからです。
一部の心ある人の頑張りだけで問題が解決しているなら、おそらく今こんなことにはなっていないでしょう。
注意喚起にも一定効果があるかもしれませんが、仕組みや仕掛けが必要だと思います。

a) 近隣大学で練習日程を調整し合同で練習する
AsianやBPで強豪大学とそうでない大学の差がつく大きな要因の一つが部内での試合の機会の有無ではないでしょうか。
たとえば現役生が5人しかいないのにAsianやBPの練習試合は組めませんよね。
練習したことがないことを大会で急にやるのは無理ですから、そもそも経験の面で同じ土俵に立てていないことになります。

自大学だけで練習試合を組めないなら、他大学と一緒になって練習に参加する人数を増やすのはどうでしょうか。
成蹊と東京女子大が過去に合同で練習していたり、最近でも学習院と青学が時折一緒に練習していたりするようです。
日程が合わなければ平日の練習日を減らして土日に集まる、地理的に遠ければオンラインで試合をするなど工夫の余地はあると思います。
「思い立ったベースで、行ける個人が大学間を行き来する」のではなく、地理的に近い大学同士でアライアンスを組み「定期練を共同開催する」のが大事ではないかと思います。
計画的かつ定期的な練習の共同開催は個人的に今まで目にしたことがないので、試す価値がありそうです。

b) 3年生以上の上級生をディベート界全体でプール / 派遣する仕組みを作る
3年生以上のアクティブなディベート人口が減っている中で、実績のある3~4年生・大学院生・社会人が強豪校に集中していることも、大学間格差の拡大や再生産を引き起こしている原因の一つと考えられます。
中小大学の1~2年生からすると、見ず知らずの他大学の上級生に声をかけるのはやはりハードルが高いということもあり、上手い人の技術が限られた大学内で滞留しているのだろうと思います。
また、一度お願いして来てもらえたとしても、何度もお願いするのは申し訳ない…という気持ちもあろうかと思います。
逆に、「声かけてくれないとニーズあるかどうか分からないじゃん!」、「そこは頑張れよ!」という声をかけられる側の言い分も個人的にはよく分かります。
この溝は属人的には埋めがたいものだと思います。

ですので、たとえばJPDUがハブとなって上級生のいない大学にコーチを紹介する / 派遣することで定期的に優れた技術を持っているディベーターの知識を伝える機会などが作れるといいかもしれません。
もちろん他大学に行くのは負担がないわけではないので、交通費+多少の謝礼はJPDU予算から出すなどの検討も必要かもしれません。
ちなみにこれは突拍子もない話ではなく、アカデミックディベートの世界で実際に行われている (いた?)取り組みです。
私はアカデに関わったことがほとんどないので小耳に挟んだ程度でしかありませんが、「ピースコ制度」と呼ばれているもので、下記のような制度だと認識しています。
・支援を必要とするインステに他大学の上級生を紹介する
・紹介された上級生は、派遣先のインステの練習に定期的に赴いてジャッジやレクチャーを行う
・上級生1人あたりの任期は1年程度
KDSにアカデセクションがあった頃 (!)2コ上の先輩が時たまピースコ制度の話をしていたので、恐らくKDSの後輩指導と並行して他大学の下級生の面倒も見ていたんでしょうね。

…上に書かせていただいたことは飽くまで幾つかのアイデアですが、何らかのtangible actionが今必要とされているのは確かだと思います。
ちなみに私個人については、お声がけいただければKDS以外のインステのサポートもできる範囲でやらせていただこうと思います。


②運営負担の格差について
今年はどういうわけか久しぶりに大会運営に関わることが多く、
(7月のFeminism Open、今回の梅子杯、そして11月に開催予定のSAD IV)
現役のコミの方々とも色々な場面で話す機会を得ました。
それで、話を聞いている中で感じたことなんですけど…大会とかイベントの運営してる人、偏りすぎてる気がするんですよね。

国際大会に行ったことのある方なら分かると思うんですが、日本の大会運営のクオリティーは非常に高いです。
まず、タイムテーブル通りに大会が進行するのがすごい。 (ディベーターやジャッジの協力あってこそですが)
梅子のDay 2なんてタイムテーブルよりも早く進みましたし。運営のクオリティーどうなってんだ。 (褒め言葉)
参加者の問い合わせへの対応も早いですし、何か手続きを忘れていると個別にリマインドしてくれたりします。

皆さん、頭では大会が人の手で運営されていることはもちろんご存知だと思います。
では、なぜ敢えて今回このテーマを取り上げようとしているのか。
それは、以下の二点を改めて明文化したいと思ったからです。
・大会の運営は常に人不足。特に、特定の役職は回せる人は限られる
・大会の運営に回るということは、自分が大会に出られない=ディベーターとしてのキャリアを積み上げられない

大会の運営ってディベーターにとってはインフラ的なもので、電気や水道と同じくないと困るけど上手く回っているうちはありがたみを感じにくいものだと思います。
ACに選ばれると「お、この人ACやるの初めてだよね」とか「最近この人よくAC呼ばれてるね」のように話題に上ることも多い一方、コミの人たちは中々認識されない。
(最初は「記号としてしか認識されない」的な言い回しにしようと思ったんですが、そもそも誰がやっているか気にされてないことが多い気がします。恥ずかしながら自分もその一人です)
大会・セミナー・練習会の運営は慢性的になり手不足ですが、特にTD~vTDクラスの運営全体の統括や、tabのような職人芸が要求される役職はクオリティー高く仕事を回せる人が少ないために限られた人の間でグルグル回りがちなようです。

ここからが特に重要なんですが、CDやFDのような役職を除いて、大会の運営に関わるということは自分がその大会に出られないことを意味します。
大会って1年中あるようで、実は意外と回数が少なかったりします。
JPDU Tは年に3回しかないので2~4年の全てに出たとしても全9回、これにメジャーなオープン大会を加えて国内では30回前後でしょうか。
一部大会は現役生がブレイクするのが絶望的に難しいことを考えると、チャンスの回数は有限です。

こういうワーストケースは頻繁に起こるものではないと思いますが (とはいえレアケースだから無視して良いものではない)、自分の役職を他にできる人がほとんどおらず運営に関わり続けた結果、2年生以降の大会参加実績がほとんどない人もいるようです。
自分たちが運営負担を分担しないことが他の人から出場機会を奪っている、ともすればキャリア全てを奪ってしまいかねないことは上級生全員が認識を改めるべきことかもしれません。
運営がんばっててすごいねって言うとか、大会当日に拍手するのは結局のところタダなので、実際に運営の負担を見える化して分散させられるような実効性のある仕組みを作ることができると素晴らしいなと個人的に思った次第です。
(私が認識できていないところで、既にJPDUとして動いていることもあるとは思いますが)
たとえば、大会運営に必ず運営未経験者1~2人を入れるルールを作るだけでも大会運営の大変さやありがたみを実感する人が増えそうですし、これまでの取り組みに加えて仕組み化できることもまだあるかもしれません。


…ということで、梅子杯に関係あることもないことも色々と話させていただきました。
現役生じゃないやつが何を偉そうに、分かってないくせに、と思われる部分も少なからずあると思いますが、個人的にここ数年思っていたことの一部を言語化できてスッキリしました。
直前の記事を書いたのが”ak_debate”こと加藤彰さんで、その次に自分というタイムスリップ感あふれるJPDUブログ。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
SNSはやっていないので (二回目)、感想やご意見などあれば直接話しかけていただければと存じます。

追伸:
10年ぶりで思い出しましたが、今年4月のElizabeth CupでJapan BP 2009以来10年ぶりにBest Speakerをいただきました。
「ディベート10年やってます!」とか「20回優勝しました!」とか「6年目で初めてBest adjとりました!」みたいな話は時々聞きますが、10年ぶりのBest Speakerって中々珍しいAND難しいんじゃないでしょうか (笑)
珍記録としてちょっぴり自慢。
おしまい。


早川さん、素晴らしい文章をありがとうございます!
長年パーラに関わってきた人だからこその文章で、読み応え抜群でした!

Umeko Cup 2019のチャンピオンチームからも寄稿文をいただく予定です。
近日公開です、楽しみに待っていてくださいね!

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